ヘンリー王子とメーガン・マークルさん(元米国女優)のロイヤルウェディングに行ってきました。
在英国際ジャーナリスト木村正人さんのお手伝いです:
【特撮】ヘンリー王子はアガっていた? 結婚式で「愛の力」「スタンド・バイ・ミー」を世界に発信
しかしまた、どうしてこのお手伝いをやらせてほしいとお願いしたのか。それはーーこんな言い方ってバカみたいですけどーーとても知りたかったからです。なにを知りたかったのかというと、フリーランスの報道ジャーナリストがどういうものであるのかを、リアルな現場で知りたかった。木村さんは、もともと大手新聞社でロンドン支局長を務められたベテランで、退社後はロンドンに拠点を移し、そこから身ひとつ、さまざまな経験を積みながらさらにスキルを身につけられ、国際ジャーナリストとして活躍されています。以前からお世話になっていましたが、今回突然の申し出にもかかわらず、こころよく受け入れてくださいました。
会場のウィンザー城には、イギリス国内はもちろんのこと、世界中から観光客が押し寄せると言われていましたので、いったいどうなることかと思いつつ、パレード開始の5時間前に場所取りをはじめました。それでもすでに最前列は埋まっており、場所によっては泊まり込みの王室ファンがいたことはおどろきを隠せませんでした。
そんなこんなで朝から待機を開始して、ふり返れば反省点は多いものの、どうやらギリギリ最低任務は果たせたような気がするなか、はじめて報道的な切り口に触れたというか(技術のほうはさて置き、汗)現場に行くまで体感としてわからなかったことがあったので、それについて簡単に記録しようと、いまこれを書いています。
◉状況に応じて柔軟に反応していくことの重要さ、そのリアリティ。
英語で”play it by ear”という表現がありますけれども。字面の意味は(耳で聴きながら)即興で演奏する、つまり臨機応変にやるってことです。これについては頭のほうでなんとなくは想像できても、じっさい現場で生身の身体で「なるほど、こういうことね!」と感じることができたのは、けっこう大きな違いだなって思いました。
もちろん事前にそれなりに調べてはいくものの、とくに今回のように事前情報がくわしく開示されない場合や、通信環境がパンクして情報収集ができなくなってしまう場合、あるいは人混みがすごすぎて身動きが取れない場合とかって、自分の経験や直感をもとに瞬間的に動いていくしかないじゃないか、と。だからPlay it by earです。
ただ、ここで「直感」と言ってしまうと、あいまいでよくわからなかったりもしますので、別の言い方を探してみると・・・
もしかして、まわりへの超すばやい観察力ってことになるのかもしれません。まず落ち着いて、パッとまわりを観察し、いまなにが起きようとしているのか、それにたいしてどう対応すればいいのかを推測するっていう作業。そういう作業に近いのかなあ、と。
そして次は即行動に移すこと。パッとものが見えてくる客観的な観察力と、バネのような瞬発行動がものを言ってくるという。
たとえば今回、メーガンさんは馬車の右側に乗り込むだろうという、それなりに確かそうな推測がありました(彼女の乗り込む位置によって、待機場所が道路のこちら側なのか、向こう側なのかが変わってきます)。私はこれをもとにして通りの右に場所を取り、数時間をつぶしたわけです(その間に反対側の通りもどんどん人で埋めつくされていく)。
ところが、いざ現れたメーガンさんは、みごと馬車の左側に座っている! 高い確率で右だろうと言われていましたが、蓋を開けたら左なわけです。これでは、彼女は反対側を向くかっこうになってしまい、顔をうまくとらえることができません。報道は表情こそが大事なのだと木村さんから念を押されていた私は、馬車が登場するなり「ああっ」と思ってしまいました。けれどもじっさい躊躇したら終わりです。「ああっ」のつぎの数秒後には、メーガンさんが視界の中から消え去ってしまう。文字どおり、そこの角をひょいと曲がってしまうわけです。しかも、私の前や横に陣取る観衆たちは、イギリス国旗やアメリカ国旗をぶんぶんと振り回し、携帯の撮影棒を上へ上へと伸ばしてきます。強引な割り込みも起こります。私の足元のキャタツが倒れてしまったら、ほんとうにしゃれにならない・・・。
臨機応変に行動する。なかなかこれは、言うはやすしと言うやつですが、これがないと報道系はまずきびしいんじゃないか。きっとこの感覚を千倍とか一万倍に濃くすると、戦場ジャーナリスト的な存在になるんだろうな。
◉まわりの人とはなるたけ仲良くなっておく。
ちょうど私のいた場所は、世界中の報道関係者が待機するプレスセンターのそばでした。首からバッジを下げた人が大きな機材やトランクを抱えては、せわしなく出入りするところです。そのため、イギリスのBBCやアメリカのABCをはじめとする大手報道局のジャーナリストやカメラマンが、つねにあたりをウロウロしていました。
彼らは結婚パレードのあと、観光客にマイクを向けて談話を撮ったり、現場の熱気を伝えるためにカメラを回したりします。そういうときに、いかにもカメラ映えしそうな人や、同じ国の出身者(ABCならアメリカ人観光客)などを、事前に歩いて探しています。もし、これはと言う人がいれば、自分のファーストネームと報道局を名乗り、相手のファーストネームを聞き出し、フレンドリーで楽しげな会話を何往復も交わすなか、さらりと撮影OKのひとことをもらっておく。それから会話を適当なところで上手に切り上げ、「じゃあまた来るね、グレイス」とか、「よろしくね、トーマス」みたいな調子で去っていきます。そしてつぎに戻ってきたとき、彼らはそれらの観衆に堂々とカメラとマイクを向けるのです。観衆たちも親しみが増しているので、乗り気になって応えてくれる。こうした一連のリクルーティングをどこまでも感じよく、楽しげにこなしていく(もちろん、今回はおめでたいイベントなので会話も弾むと思われますが、悲しいできごとの取材ではアプローチも異なると思う)。これが非常にこなれているな、と。私としては、現場に行くまでここまで明確に描けなかった部分です。
とまあ、ごちゃごちゃ言うのもこのくらいにして!
すごくいいウェディングだったと思います。パレードを待つあいだ、屋外マイクで教会内の音声が流れているのを聞きましたが、そのおごそかで神聖な雰囲気は、観光客にもじゅうぶんに共有されていましたし。私も心があらわれるようでした。
アメリカ人の黒人司教のスピーチに、黒人のコーラス隊など、日本人にはちょっとピンとこないかもしれないけど、世界中で涙した人は大勢いたんじゃないでしょうか。強烈なメッセージだったと思います。
これまでのゴシップで、メーガンさんの出自についてはさんざん言われてきましたがーーーたとえば彼女の母親が黒人で奴隷に先祖を持つだとか、父親は白人でスコットランド王の末裔だとか、そのあいだに生まれた混血が、とかーーーそのあたりも英国王室がまるごと受け止め、時代とともに進化する王室の意思をさらに強固に魅せたのは、本当にさすがでした。