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アフリカへサファリに行く

セレンゲティ編(3)

アフリカへサファリに行く

セレンゲティ編(3)

発情期のライオンたち

「何かいる!」
平原を移動中、だしぬけに運転席から声が上がる。
進行方向には数台のサファリカーが、なにかを取り囲むようにして止まっている。
「ライオンのカップルだよ! 囲まれてる!」
車の集まる中心に、ライオンのオスとメスが隣り合って座っている。
これまでたくさんの動物を見てきたが、そのどれもが草食あるいは雑食だった。ようやく私たちは肉食動物のテリトリーに入ったらしい。

これだけ包囲されているにもかかわらず、彼らはじつに堂々としてまったく意に介さない。まるでこの世に恐れるものなどないのだからと言うように。

夢中でシャッターを切っていると、いきなりメスが立ち上がり、ゆっくりと歩きながら車のあいだを抜けていく。そのあとを遅れてオスがのっしのっしと付いていく。気だるそうだ。

窓からはみ出たカメラのレンズが2頭の動きを追いかける。

そうしてほんの20、30メートル進んだ先で、メスはまた座り込む。
するとオスが後ろからメスのほうへ近づいて–––––

突然の交尾がはじまる。まるですべての動作がはじめから決まっていたかのようなスムーズさと何気なさで。

……。

なにしろこちらは野生のライオンに近づくことさえはじめての経験だ。彼らは動物園やサファリパークのライオンたちとはぜんぜん違う。けっして飼育はされないし、指図される者もない。サバンナで狩りをして獲物を食らい、ときには飢えと闘いながら縄張りを守っている。そんな野生のライオンを目にするだけでも緊張が走るというのに、出会っていきなりこのような光景を見せつけられると、やはりなんというか、仰天したと言わざるをえない。
しかし彼らにしてみれば、そんな事情はなんら関係がないわけで–––––この時期、発情期を迎えたライオンは20〜30分に1度の頻度で交尾を行うと言われている。

メスの上に乗ったオスが、ガオオ、ガオオと低い声で吠えている。
そのまま20秒が経過する。

その後オスはメスから離れ–––––

2頭の間にふたたびもとの平穏が訪れる。

百獣の王と言っても、1日の大半は眠りの中だ。ライオンの睡眠時間は15時間。草食動物のようにカロリーの少ないものを大量に食べ続けたり、外敵を警戒したりする必要がなく、長い時間を睡眠に費やすことができるという。また狩りに備えて体力を温存する必要があるらしい。

アフリカのライオンは通常10-15頭のプライドと呼ばれる群れをなし、1頭(または2、3頭)のオス、複数のメスと子どもで暮らしている。狩りはほとんどメスが複数で行い、シマウマやヌー、アンテロープなど比較的大きな草食動物を襲う。仕留めた獲物を最初に食べるのはオス。オスは、ハイエナやほかのオスの侵入を防ぎ、自分たちの王国を守っている。

「12年。彼らの寿命さ。そう長くは生きられない」
アフリカのライオンはこの20年で半数近く減少したと言われている。原因は生息地の消滅や獲物の不足、人間との衝突など。専門家は2050年までにアフリカのライオンは絶滅の危機に瀕するだろうと指摘している。