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アフリカへサファリに行く

マニヤラ編(2)

アフリカへサファリに行く

マニヤラ編(2)

茂みの陰からヒヒの家族

私たちは「マニヤラ湖国立公園」へやってくる。いよいよこれからサファリのはじまり。動物たちを探しながらそこら中を移動するのだ。

正面ゲートの管理事務所で、シンバが入場の手続きをしてくれる。私は車をいったん降りてトイレを済ませる。ここではトイレを見つけたらとりあえず行っておかねばならない。

このあたりは地質的に「大地溝帯(グレート・リフト・バレー)」と呼ばれ、断層と断層に挟まれて落ちこんだ巨大な溝になっている。その底にあるのがマニヤラ湖国立公園。面積は330km2。雨季にはその6割が水の中に沈むという。アーネスト・ヘミングウェイが「私がアフリカで出会ったもっとも美しいもの」と称したのは有名だとか。
ガイドブックを開いてみると、ここでよく見られる野生動物は、ヒヒ、ゾウ、ヌー、バッファロー、キリン、シマウマ、インパラ、イノシシ、レイヨウなど。また野鳥好きには天国で、その種類は何百にもおよぶらしい。

ゲートをくぐって数分後。茂みの陰からヒヒの家族がやってくる。

赤く剥けたお尻。ふさふさした長い体毛。ヒヒは世界でもっとも大きなサルで、群れをなし階級を作って暮らしている。オスは年齢や体の大きさによって、メスは主に生まれた順でランクがつく。オスはメスより体が大きく、体長50~90センチ。1頭のオスが数頭のメスや子どもを引き連れ、ハーレムを形成する。食べ物は雑食で昆虫や果物、木の葉や種子など、肉も食べることがある。ほかのサルと違ってほとんどの時間を地面の上で過ごす。

「彼らはとても頭がいい」シンバが「ほらあそこ」と指さしながら教えてくれる。
車のエンジンが止められる。
しばし静かな時間が流れる。
あちこちから聞こえてくる野鳥のさえずり。近くを流れる小川のせせらぎ。茂みからはまた別のヒヒの気配。

「ときどき近くの村に降りてきて、食べ物を盗むんだ。道の向こう側から商店なんかを眺めてる。人間がどこかに行ってしまった隙に食べ物を奪っていくんだよ」

ヒヒたちが脇の茂みに腰かける。母ヒヒがおもむろに子の毛繕いをしはじめる。たぶんノミのようなものだろう。子どもの背中、肩や腕。そこから何かをつまんでいる。そしてそのまま口の中へと運んでしまう。

わが子の体毛に棲みついた小さな虫を食べる母。彼らが私の遠い、遠い親戚なのだと思うとやはり妙な気持ちになるが–––––。

最近の研究で、ヒヒたちが唸るとき、母音に似た5つの音を発することがわかってきた。これまで、母音を発することは人類特有の能力であると考えられており、発話能力の起源は10万年〜7年前のどこかであると見なされてきた。しかしこの研究により、発話の起源がじつはそれよりずっと以前、ヒヒと人類の共通祖先の2500万年前にまで遡るかもしれないと、研究者たちは考えている。

われわれ人類はどこからきたのか。その進化の過程でどんなことが起きたのか。私たちは自分のことさえいまだによくわかっていない。